知っておきたい!日本のAI新時代を拓く『AI推進法』の背景・概要・これから

知っておきたい!日本のAI新時代を拓く『AI推進法』の背景・概要・これから

2025年、日本のAI領域で最も注目すべきニュースの一つが、日本初のAIに特化した法律「AI推進法」の成立です。この法律は、私たちのビジネスや生活にAIがより深く浸透していく中で、その未来を大きく左右する可能性を秘めています。AIに関心を持つビジネスパーソンやIT系の皆様に向けて、このAI推進法がなぜ生まれ、どのような内容で、そしてこれから何が変わるのかを、2025年5月時点の最新情報をもとに分かりやすく解説します。

1. なぜ、いまAI推進法が必要なのか?導入背景

2025年5月に日本で初めてAIに特化した法律「AI推進法」が成立しました。この法律が生まれた背景には、いくつかの重要な理由があります。

まず、国際的なAI開発競争において、日本が米国や中国、欧州といった諸外国に比べて、AIの活用や研究開発で遅れをとっているという強い危機感がありました。個人や企業のAI利用率も比較的低い水準にあり、国際競争力の強化が急務とされていたのです。

次に、ChatGPTやGeminiなどの生成AIが急速に普及したことによる新たな社会課題の顕在化も大きな要因です。偽情報(フェイクニュース)の拡散、プライバシー侵害、人権侵害、ディープフェイクといった、これまで想定されていなかったリスクへの対応が求められるようになりました。

また、AIに特化した包括的な法律が存在しなかったため、企業や自治体がAIを活用する際に明確なルールがなく、対応に迷う場面が増えていたことも背景にあります。

その一方で、少子高齢化や人手不足が深刻化する日本において、AI技術は業務効率化やサービス向上、さらには社会課題の解決に不可欠な存在と見なされています。AIは国全体の生産性向上と経済成長の持続に貢献することが期待されています。

これらの状況を踏まえ、AIのイノベーションを促進しつつ、倫理、安全性、透明性の確保やリスク管理を同時に実現するため、政府主導で総合的な枠組みを整備する必要性が高まりました。こうした背景から、「AI推進法」が成立し、AIの研究開発・活用推進とリスク対応の両立を目指す体制づくりが進められることになったのです。

2. 日本初のAI特化法、「AI推進法」の概要

2025年5月、日本で初めてAIに特化した法律として「AI推進法」が成立しました。これは、今後の日本のAIに関する取り組みの基盤となる重要な一歩です。

この法律の基本的な考え方は、AIの活用を積極的に推進すると同時に、安全性や規制の強化を図るというものです。つまり、AIの技術開発や社会実装を後押ししつつ、それに伴う様々なリスクに対してもしっかりと対応していくという、まさに「イノベーションとリスク対応の両立」を目指す姿勢が示されています。

AI推進法では、その推進体制として、総理大臣をトップとする「AI戦略本部」が新設されることが盛り込まれています。このAI戦略本部は、国全体のAI戦略の司令塔となり、AIに関する重要な方針決定や関係省庁間の連携を強化する役割を担うと考えられます。また、「AI基本計画」の策定も法律に盛り込まれています。これは、今後のAIの研究開発、社会実装、人材育成、国際連携、倫理・安全対策など、幅広い分野にわたる国家戦略の指針となるものです。この基本計画に基づいて、具体的な施策が進められていくことになります。

法律には、現時点では直接的な罰則は設けられていないという特徴があります。AIによって引き起こされる可能性のある問題については、既存の法律を活用して対応していく方針が示されています。これは、AI技術の発展が速く、新たなリスクが次々と生まれる中で、硬直的な規制でイノベーションを阻害することを避けるという意図があると考えられます。まずは法の理念や方向性を示し、具体的なルール作りは今後の基本計画や既存法の適用の中で柔軟に行っていく姿勢と言えるでしょう。

このAI推進法の成立は、2025年の日本におけるAI活用拡大という大きなトレンドを象徴する出来事の一つです。法が示すAI活用推進の方向性は、既に様々な分野で具体化され始めています。

例えば、自治体での生成AI活用が拡大しています。その先進事例として注目されているのが、横浜市とNTT東日本が連携した実証実験です。ここでは、RAG(検索拡張生成)という技術を活用した生成AIが使われました。RAGは、外部のデータソース(この場合は行政内部の文書など)を参照して回答を生成する技術で、より正確で最新の情報に基づいた回答が得られるのが特徴です。この実証実験では、選挙業務や権利擁護といった行政の複雑な業務でAIの有効性が確認されています。AI推進法が成立し、国としてAI活用を推進する方針が明確になったことは、こうした自治体での取り組みをさらに後押しすると考えられます。

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企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)加速とAI活用の本格化も、2025年の重要なトレンドです。コンサルティング業界を中心に生成AIの活用が進んでおり、様々な業務の効率化が図られています。具体的な例としては、SMFL(旧三井住友ファイナンス&リース)が提供する**「決算書入力AI」サービス**があります。このサービスは、決算書からのデータ入力をAIが自動で行うことで、経理業務の大幅な自動化・効率化を実現しています。AI推進法による法的な枠組みの整備は、企業が安心してAIを導入し、DXを加速させるための追い風となるでしょう。

さらに、国内大手企業による新たな生成AIサービスの発表も相次いでいます。NTTやNECといった日本の主要な企業が、国内市場向けに独自の生成AIサービスを次々とリリースしています。これにより、国産AIサービスの選択肢が増え、ビジネスだけでなく、自治体や教育現場といった幅広い分野での活用が広がっています。AI推進法は、国内でのAI開発やサービス提供を後押しし、日本のAI産業の活性化にも貢献することが期待されます。

そして、行政分野全体での生成AI活用推進も進んでいます。デジタル庁は2025年、行政での生成AIのユースケースの発掘や実用化に向けた検証を進める方針を示しています。これと並行して、AI活用のための共通ルールの整備や安全性確保にも注力しています。民間企業とも連携しながら、行政サービスの質向上や業務効率化を目指しています。AI推進法は、こうした行政の取り組みの法的根拠となり、より計画的かつ体系的なAI活用を進めるための基盤となります。

このように、AI推進法は単に法律ができたというだけでなく、AI戦略本部や基本計画といった推進体制を整え、罰則を設けずに既存法で対応するという柔軟なアプローチを取りながら、既に始まっている自治体、企業、行政分野でのAI活用拡大というトレンドを後押しする役割を担っていると言えるでしょう。法の具体的な内容は今後の基本計画などで詳細が詰められていきますが、日本のAIの方向性を示す重要な一歩であることは間違いありません。

3. AI推進法で何が変わる?

AI推進法が成立したことで、私たちの社会やビジネスにはいくつかの変化がもたらされると考えられます。

まず、企業や自治体は、これまで以上にAIの活用に踏み出しやすくなるでしょう。これまでは、AI活用に関する明確なルールがないことや、将来的な規制の行方が不透明であることから、AI導入に二の足を踏むケースも見られました。しかし、AI推進法によって国がAI活用を推進する方針を明確に打ち出し、AI戦略本部や基本計画の策定を通じて具体的な方向性やルールの枠組みを示そうとしているため、企業や自治体はより安心してAIの導入や開発を進めることができるようになります。実際に、横浜市での生成AI実証実験やSMFLの決算書入力AIサービスといった具体的な事例は、こうした法の後押しを受けてさらに広がりを見せる可能性があります。

次に、AIの安全性や透明性に対する取り組みが強化されることが期待されます。AI推進法では、活用推進と並んで安全性や規制強化が目的として掲げられています。これにより、AIを開発・提供する側は、偽情報対策、プライバシー保護、データ利用の適正化といった点にこれまで以上に配慮することが求められるようになるでしょう。利用者側も、より信頼性の高いAIサービスを選びやすくなる可能性があります。法律に罰則がない点は、即時的な強制力というよりは、まずはガイドラインや基準を示すことで、業界全体の意識向上や自主的なルールの形成を促す効果が期待できます。

また、AI戦略本部によるAI基本計画の策定を通じて、国全体としてより体系的かつ長期的なAI戦略が推進されるようになります。これにより、AIの研究開発への投資、AI人材の育成、国際連携などが計画的に進められることで、日本のAI分野全体の底上げにつながる可能性があります。特に、NTTやNECといった国内大手企業による国産AIサービスの増加は、こうした国家戦略と連携することで、日本の強みを活かしたAIエコシステムの構築につながるかもしれません。

行政分野では、デジタル庁が主導する生成AIのユースケース発掘や共通ルール整備が、AI推進法によって法的根拠を得て加速します。これにより、行政手続きの効率化や、国民向けのサービス向上にAIがさらに活用されることが期待されます。RAGを活用した自治体での実証実験のように、行政固有の複雑な業務にもAIが適用されることで、行政運営そのものが大きく変わる可能性を秘めています。

さらに、AI推進法は「生産性向上と社会課題解決への期待」という背景も持っています。労働力不足や少子高齢化といった日本の課題に対して、AIが効果的な解決策を提供できるよう、法的な側面から後押しすることで、社会全体の変革を促進する役割も期待されています。

要約すると、AI推進法は、AI活用の促進、安全性・透明性の向上、国家戦略の推進、行政サービスの変革、社会課題解決への貢献といった多岐にわたる変化の起点となる可能性を持っています。罰則なしという特徴から、強制力よりも方向性を示す側面が強いですが、これにより企業や自治体がAIに積極的に向き合う環境が整備され、日本のAI開発・活用が新たな段階に進むことが期待されます。

4. 課題

AI推進法は日本のAI分野にとって重要な一歩ですが、同時にいくつかの課題も指摘できます。

第一の課題は、法律の実効性をどのように確保するかという点です。AI推進法は罰則を設けておらず、既存の法律で対応する方針です。これは、変化の速いAI技術に柔軟に対応するための選択と考えられますが、AIによって引き起こされる様々なリスク(偽情報、プライバシー侵害、ディープフェイクなど)に対して、既存法だけで十分に対応できるのか、また、罰則がないことで推奨される安全基準や倫理規範がどれだけ守られるのか、という懸念が残ります。法律が「絵に描いた餅」にならないためには、今後のAI基本計画や、ガイドライン、業界ごとの自主規制など、具体的な実行策とモニタリングの仕組みが不可欠となります。

第二に、変化の速いAI技術に、法制度がどこまで追随できるかという課題があります。AI技術は日進月歩で進化しており、これまで想定されていなかった新しいリスクや活用方法が次々と生まれています。AI推進法は包括的な枠組みを示しましたが、具体的なルールを定める際には、常に最新の技術動向を把握し、迅速かつ適切に対応していく柔軟性が求められます。法改正には時間がかかるため、既存法の解釈や、省庁・専門機関によるガイドラインの改訂など、機動的な対応策が重要になります。

第三に、AIの「推進」と「規制・安全性確保」という、一見相反する目的のバランスをどう取るかという課題です。過度な規制はイノベーションを阻害し、日本の国際競争力強化の足かせとなる可能性があります。一方で、規制が不十分であれば、AIが悪用されたり、社会に深刻な影響を与えたりするリスクが高まります。AI戦略本部や基本計画の策定過程で、関係者間の様々な意見を聞きながら、慎重かつ大胆に最適なバランスを見つける必要があります。

第四に、具体的なルールの詳細がこれから策定されるという段階であることです。法律はあくまで大枠を示したものであり、AI基本計画や関連するガイドラインで具体的な基準や手順が定められていきます。これらの策定プロセスが遅れたり、内容が不明瞭であったりすると、企業や自治体は再び対応に迷うことになりかねません。透明性の高いプロセスで、分かりやすく具体的なルールを迅速に策定・周知することが求められます。

最後に、法律だけでは日本のAI分野の国際競争力強化は難しいという点です。AI推進法は法的な基盤を整備する重要な一歩ですが、国際競争力を高めるためには、AI研究開発への大規模な投資、世界レベルのAI人材の育成、スタートアップ支援、国際的な連携強化など、多角的な施策を同時に、かつ継続的に進めていく必要があります。AI推進法がこれらの施策を力強く後押しできるかどうかも、その成否を分ける鍵となるでしょう。

これらの課題に対し、今後のAI戦略本部や関係省庁の取り組み、そして民間企業や研究機関、市民社会がどのように連携していくかが、AI推進法の真価を問われることになります。

5. まとめと展望(今後の可能性や注目すべき視点)

2025年5月に成立した日本初のAIに特化した法律「AI推進法」は、日本のAI活用を新たな段階へと引き上げる重要な一歩です。この法律は、国際競争力の遅れや生成AIの急速な発展に伴う課題といった背景から生まれ、AIの活用推進と安全性・規制強化の両立を目指しています。総理をトップとするAI戦略本部の新設やAI基本計画の策定も盛り込まれ、国として体系的にAI戦略を進める体制が整えられました。

AI推進法によって、企業や自治体はAI活用にさらに踏み出しやすくなり、安全性や透明性の向上、そして行政サービスの変革などが期待されます。既に、自治体での生成AI活用拡大、企業のDX加速、国産AIサービスの増加、行政分野での活用推進といった具体的な動きが見られており、AI推進法はこれらのトレンドをさらに加速させる追い風となるでしょう。

一方で、法律に罰則がないことや、今後の具体的なルールの策定、技術進展への追随、推進と規制のバランスといった課題も存在します。これらの課題にいかに取り組み、克服していくかが、AI推進法の真価を問うことになります。

今後の展望として、最も注目すべきは、AI戦略本部が策定するAI基本計画の内容と、それに基づく具体的な施策の実行スピードです。この計画が、日本のAI研究開発、産業振興、社会実装、そしてリスク対策の道筋を定めることになります。また、罰則がない中で、どのようにして安全性や倫理性が確保されていくかも重要な注目点です。技術的な対策だけでなく、社会全体でのリテラシー向上や、開発者・提供者の高い倫理観がより一層求められるようになるでしょう。

国産AIサービスのさらなる発展や、行政・自治体でのAI活用が、日本社会の生産性向上や、少子高齢化といった社会課題の解決にどこまで貢献できるかにも期待が集まります。

AI推進法は、日本のAIの未来を描くためのスタートラインに立ったばかりです。今後、この法律がどのように運用され、変化し続けるAI技術や社会のニーズにどう適応していくか。そして、イノベーションと安全性を両立させながら、日本がAI分野で国際的な存在感を高められるか、その行方に引き続き注目が必要です。私たち一人ひとりも、AIの進化とその影響について理解を深め、共に新しい時代を創っていく意識を持つことが大切になるでしょう。

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